"Monochromeの北海道 1966-1996" そして Ektachromeの頃

落石 (根室本線) 1980

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根室郡和田村大字落石村の地名は随分と昔から知っていた。チャールズ=リンドバーグによる1931年の北太平洋横断飛行でアリューシャン列島を南下する搭乗機シリウス号を誘導し、濃霧の根室湾へと着水させた無線電信局の所在地としてである。書名は失念したが、学校図書館の蔵書に読んだものだろう。国家の大事な施設は全て東京に在るものと信じていた札幌の少年には、それが北海道の、しかも東の果てに存在するなどと信じられぬ思いだったと記憶する。
落石無線電信局は、それが唯一の長距離通信手段だった1908年に、北太平洋の大圏航路を北米西海岸と往来した船舶との通信局として設けられ、カムチャッカや千島列島、樺太の電信局との間で公衆電報業務や気象通報なども行っていた。高さ90メートルのアンテナと局舎に居住宿舎や共同浴場に娯楽施設なども擁する一角が落石岬の原野の只中に造られて、局員と家族の50人程が暮らしていたとされる。
電信とは電鍵を叩き、モールス信号を共通言語に意志疎通を図る通信方式である。それは国際通信ばかりでなく、当然に国内通信にも用いられ、全国に有線・無線の通信回線網が1900年代初頭までには形成されていたのである。

1872年に品川-横浜を開業して以来、鉄道もまた部内の相互通信を電信方式に頼り、官営からの国有鉄道も独自の電信網を整備するに至る。同年12月6日には当時の鉄道寮内に電信技士養成の電信修技所が置かれ、これが国有鉄道における職能教育制度の嚆矢とされているほどに、電信は列車運行に欠かせぬ通信手段であった。
1880年の神戸-三ノ宮間を端緒に電話の導入も始まるのだけれど、当時には長距離通信には使用出来ず、構内通話を中心にせいぜい駅間連絡の補助に用いられた程度に留まっていた。1900年代に至りタイヤー氏式タブレット閉塞装置の導入や双信閉塞器の開発により電信を用いた閉塞扱いが廃止されると、運転との直接性は失われ、電話技術の進展には事務的通信の分野からは撤退を余儀なくされたものの、まだ不安定であったそれに対しては確実性や多箇所への同時送信の利便から列車指令には電信の多用される時代の続いた。
電話による運転指令は、その信頼性の向上とともに1922年の汐留-沼津間、汐留-八王子間での施行に始まり、重要幹線から、ほどなくは全国へと普及し、電信を放逐するに至るのだが、その後も一部書面の通達に同報性・速達性を要する書類の送信には永く利用され、戦後の日本国有鉄道東京教習所では1963年まで電信技士の養成が行われていた。

落石無線電信局の業務は、それの存在を知った頃の1966年には札幌中央電報局に統合されて要員の引上げられていた。無人の通信施設としてはその後も稼働した様子なのだが、詳細は調べ得ていない。
落石に初めて降りた1971年に、午後から晴れ出した霧の彼方にアンテナ塔を確認したようにも覚えているのだけれど、どうにも記憶は曖昧になってしまった。数年後、落石漁港へと下る道の途上から、かつての局舎の廃墟を遠く眺めて位置を確認したものだった。
落石湾を見下ろす段丘上を往くのは238D、釧路行き。後追いである。
何度か落石で記事を書いているにかかわらず、いまさらに定番の画角をご容赦頂きたい。この日は、わざわざ漁港を経由して三里浜を延々と歩き、写真の急崖を登って到達したとメモにある。

[Data] NikonF2A+AiNikkor50mm/F1.4 1/250sec@f8 Fuji SC56 filter Tri-X(ISO320) Edit by LightroomCC on Mac.

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コメント

落石駅

こんにちは。
学生時代の思い出の地名を久しぶりに目にしました。
落石岬に行きたいと、落石駅から歩いて歩いて、随分寂しい場所だと思っていると、岬への入口を入ったところの真四角な大きな建物。
人気も無く、不気味なほどの静けさでした。
岬から見た海、夕日、駅まで車に乗せてくださったご夫婦、記憶に残る旅の場面です。
日没後、暗くなってきた無人の落石駅で、根室行きの下り列車がいつまでも来ず、流石に不安に感じ始めた頃、2時間近く遅れてやって来た列車の運転士さん曰く「鹿とぶつかってしまって」。根室まで数度会話させて頂きながら向かったのもいい思い出です。
この路線の列車をお写真のような視線で俯瞰したことはありませんが、お写真のままに、薄暮の車窓には何もなかったことをありありと思い出しました。
また、いつか訪ねたい路線です。
今後とも、宜しくお願い致します。
風旅記: http://kazetabiki.blog41.fc2.com/?pc

  • 2015/06/17(水) 10:58:16 |
  • URL |
  • 風旅記 #O7xVy9HA
  • [ 編集 ]

Re: 落石駅

こんばんは、風旅記さん。
確かに車窓には樹林帯も姿を消して、原野の過ぎるぱかりの区間ですよね。
細くなった根室半島の脊梁部を線路は辿っていて、その両斜面が見通せるから
なおさらなのでしょう。
落石の集落や漁港の風景は、随分と後になって訪ねた中東レバノンの地中海に面した港町と重なります。
方や、乾燥気候で樹木の育たない土地なのですが、何も無いところに突然に人の暮らしが現れるのには、
この落石を想い出したのでした。

  • 2015/06/28(日) 01:05:52 |
  • URL |
  • Wonder+Graphics #-
  • [ 編集 ]

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