"Monochromeの北海道 1966-1996" そして Ektachromeの頃

塘路 (釧網本線) 1979

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随分と前のことだが、誘われて栗山町の蔵元、小林酒造の「呑みきり」に参加させてもらったことがある。「呑みきり」とは寒造りして貯蔵した酒を初めて開封、具体的には貯蔵タンクの上呑みと呼ばれる栓を開けて取り出して試飲し、出来映えと熟成を確認するもので、大抵は気温の上がり始める6月終わりから7月始めを選んで行われる。酒蔵にとっては夏の定例の「行事」ではあるが、実際に全ての貯蔵タンクの酒を調べ、その後の貯蔵計画や製品化計画を立案する基礎データを得る「実務」でもある。近年には「行事」的には行わなくなった蔵も多いが、かつてには故郷に帰っていた杜氏や蔵人集も再集合し、醸造試験場からの来賓を迎え、得意先も招待しての利き酒会に懇親会と称しての宴を開くのだった。小林酒造には「実務」の方に不肖ながら参加させて頂き、酒呑みとしては天にも昇らん体験であった。

前置きが長くなってしまったが、その際に立ち寄った栗山町の、確か公民館だったと思うのだが、そこに飾られていた魚拓には度肝を抜かれたのである。それには、戦前に夕張川で捕獲されたと云う、体長の2メートルに迫ろうかと云うイトウなのだった(*1)。このサケ科最大の河川遡上回遊魚は、石狩川水系のここにも棲息していたのである。
かつて、イトウは渡島半島南部と日高地方、道北日本海岸の一部を除く全道の水系に棲息して、奥羽地域北部太平洋岸にも採捕の記録が残る。その棲息分布は湿原地域、海跡湖沼の存在に一致していた。同じく降海性のサケとの相違は、およそ20年程と云われる寿命に成魚となってから幾度もの多回産卵にあり、その生活史の全ては明らかとなっていないが、流れの緩やかな湿原河川の中流から下流の汽水域を含む湖沼や塩水の沿岸を回遊して過ごし、春期の産卵に上流域へと遡上すると推測されている。
1960年代から急速に進んだ流域の農地化に宅地化では、蛇行していた河川が排水路として直線化され、それによる河畔林に淵と瀬、氾濫原の消失は産卵環境の悪化を招き(*2)、多くの水系で絶滅へと向かってしまった。開発の手の入り易い平坦地河川を棲息域としていたのが致命的だったとも云える。

広大と云われる釧路湿原も釧路川本流下流域での農地や宅地の開発のみならず、支流のオソベツ川、ヌマオロ川、コッタロ川、久著呂川、オンネナイ川、雪裡川、幌呂川で大規模な改修が進んだことで棲息数は激減した。1981年を境として急激な落込みを示した釣果報告は、1970年代に本格化して1980年代にかけて行われた上記施工時期と符合し、20年を経た2003年の調査では繁殖可能な親魚の個体数は20尾程度と推定されるに至った。
まさに絶滅寸前であり、採捕したそれら親魚からの人工採卵、孵化による稚魚放流も続けられていると聞くけれど、既に悪化した河川環境に稚魚の生存率の悪く、雄で4から6年、雌では6から8年と極めて遅い成熟魚齢にも阻まれて、個体数の回復には至っていない。それでも、河川名の明らかにされない僅かに残された産卵適地には年毎に十数箇所の産卵床が確認されているようではある。
本多勝一氏による1993年の著作「釧路湿原」には、戦前期に塘路で暮らした開拓民の話として、釧路川本流で子供達の背丈よりも大きなイトウと泳いだ話が記録されていた。透明で遥かに水量の豊かだった流れには、そんな魚体が当たり前に悠々と回遊していたのである。
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(*1) 記されていた捕獲年月は失念してしまったのだが、それは夕張川が新河道に切替えられる1936年以前と思う。新河道には落差4メートルの清幌床止が設置され、イトウは遡上出来なかったろう。
(*2) 淵から瀬への移行地点、俗に渕尻とか瀬頭と云われる位置の小石礫の水底を産卵床とする。

位置の数度の既出をお詫びするが、これも「塘路の崖」である。
エオルト沼、マクント沼、ポント沼から塘路湖まで、低い冬の光線に光る氷結した湿原を見渡す。これでも南中時刻まで30分も無い時間帯である。
眼下を通過して往くのは611D<しれとこ3号>。

[Data] NikonF2A+AiNikkor28mm/F2.8 1/250sec@f8 Y52filter Tri-X(ISO320) Edit by PhotoshopLR5 on Mac.

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