"Monochromeの北海道 1966-1996" そして Ektachromeの頃

ニセコ (函館本線) 1984

niseko_03-Edit.jpg

考えても見れば、文字を持たなかったとされる蝦夷(えみし)が、そこに「郡領を置け」と進言したにせよ、地名をメモにしてよこすはずも無い。
『日本書紀』の、659年阿倍比羅夫による東征の記事に在る「後方羊蹄(しりへし)」は同書の凝った当て字である。「しりへ」を「後方」と表し、タデ科植物のギシギシの漢名「羊蹄」を「し」に当てて洒落込んだものだろう。この用法は万葉集にも例が在ると云う。
この「後方羊蹄」とした地が現在の後志地方との確証は得られていないのだが、それが蝦夷地シリベツ川の流域との説を最初に唱えたのは、江戸中期の学者 新井白石[1657-1725]と云われている。一方で、1700年代末から1800年代に蝦夷地を探検した最上徳内や近藤重蔵などにより、シリベツ川流域にひときわ目立つ独立峰を以てして「シリベツ山」との報告がなされる。
これが、幕府内において、白石の著作を通じて定説化していた蝦夷の「しりへし」と誤って記録される例が在って、「しりべつ」との混同を招いてしまい、この独立峰を「後方羊蹄山(しりべしやま)」と記する端緒となったのである。
江戸時代末期に幾度も蝦夷地を旅した松浦武四郎は、それを理解してもなお「後方羊蹄山」と書いたし、1868年に発足した明治政府は、天皇回帰とそれに基づく蝦夷地の植民地化の意思を明確化するものとして「後方羊蹄山」を、敢えてこの独立峰の名称としたのだった。
陸軍参謀局の整備する国土基本図(地形図)にも、その名称を表記して定着を図るものの、学術上からは先住民族の付したマッカリヌプリとする文書も多く、両者が併用される時代が戦後まで永く続いた。
その間に、国民の間には「しりへし」を知らずに、これを「こうほうようていざん」と読む者が現れ、後方があるならと尻別岳を「前方羊蹄山」とする余りに無知な動きにも連鎖したため、1960年代に至って倶知安町が裁定に乗り出す。その際、一方のマッカリヌプリを転じた「真狩山」とすれば良いものを、これは地名に敬意を払わぬ日本の行政に共通する悪癖なのだが、「後方羊蹄」を難読として、一体であるべき「後方」を切り離して「羊蹄山」としてしまった。おそらくは当時に関係した5町の長たちが、その文字面に語感をお気に召したからなのだろう。
かくして、この優美な山容を見せる山への「ようていざん」の読みは、先住民族に礼を失するのは当然として、日本書紀の記述は疎か、それを国家主義に利用したはずの為政者をも裏切り、歴史に配慮しない言わば「創作」名称となったのだった。

そんな近代ご都合主義にはお構い無く、「真狩山」は澄んだ冬の大気に浮かぶ。
列車は荷43列車、苗穂行き。

[Data] NikonF3P+AiNikkor180mm/F2.8ED 1/250sec@f8 FujiSC52filter Tri-X(ISO320) Edit by PhotoshopLR4 on Mac.

Website "カメラ 万年筆" Updateのお知らせ (2013-08-26)

久々で新しい Gallery を公開しました。
夜に向かう列車のカットを集めた 「Darkness」の続編です。ここで既出のカットに未発表のものを追加しています。
関連記事

コメント

こんにちは

地名に敬意を払わない行政 全くですねえ・・・ 
なんでそんなにその土地の性格を消去するような名ばかりつけるのか
地名が消えたら駅名もおかしくなるし・・・

真狩のスター細川たかし氏と音楽関係の仕事をしていたおじが出会ったのはすすきのの酒場だったのだそうです もちろん双方ともに駆けだしのころ
よくそのあたりの話を聞きました
同郷でしかもどちらも田舎出身だったので長くおつきあいもしたのだそうです

土地の名はその土地に生まれた者にとっては誇りです
ましてや山には山の神様がいて・・名前間違われるなどして いつかくわっと怒らなきゃいいけどなんて思います

  • 2013/08/27(火) 09:26:46 |
  • URL |
  • Jam #-
  • [ 編集 ]

Re: タイトルなし

こんばんは。

行政の地名への鈍感さには呆れるものがあります。
近年では所謂「平成の大合併」が記憶に新しいところですが、訳のわからない創作自治体名が続出して、
かつての教科「地理」の知識が通用しなくなりました。
北海道でも、大空町と云われていったい何処にあるのやら。
道内中どこだって「大空」町のような気もしますし。

幸い、駅名にまでは波及しませんでしたが、今後も油断はできません。
初鹿野(はじかの)と云う平安期以来の優雅な駅名を、町名が変わったからと
甲斐大和なる味気ない名に変えさせてしまった例もかつて山梨県にありました。

このニセコだって、Nisey-koanの文法上不可分なはずのkoとanで分けちゃった結果で、
先住民族は、さぞ居心地が悪かろうと思います。

  • 2013/08/28(水) 00:48:01 |
  • URL |
  • Wonder+Graphics #-
  • [ 編集 ]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://northernrailways.blog.fc2.com/tb.php/477-b2902596
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad